西中国山地自然史研究会 観察会
サクラソウ保全に向けた地域の取り組み

【案内文】
北広島町美和地区(旧芸北町)では,芸北のサクラソウを保存し,育成する活動を2000年から続けてきました.遺伝子を使った最近の研究では,美和地区のサクラソウは,広島県東部や九州に自生する個体群とは異なる,独立した系統を確立していることが分かりました.今回は,その活動を紹介していただきながら,美和地区の自然観察を行います.観察会の後には,サクラソウを取り巻く環境について茶話会を設ける予定です.
開催日時:5月8日(日) 9:30
集合場所:美和東文化センター
準備:山を歩ける服装,弁当,水筒,筆記用具,双眼鏡など
講師:サクラソウを育てる会
定員数:30名人
主催:西中国山地自然史研究会
協力:高原の自然館,芸北文化ホール

【報告文】
お天気の日曜日,いつも通い慣れた八幡から美和に場所を移しての観察会です.今年はサクラソウの開花が5日ほど遅いそうで,ちょうど見頃となりました.今日の会では,サクラソウの生態を観察し,サクラソウを保存するための地元の取り組みを聞きながら,今後の活動についてみんなで考えることが目的です.
まずは美和東文化センターで,「サクラソウを育てる会」の会長,下杉孝さんからサクラソウについての説明がありました.芸北では八幡と美和の2ヵ所でサクラソウが見つかっていますが,遺伝子を使った最新の調査によると,これら二つのサクラソウはルーツが異なるようです.美和のサクラソウはもともと自生していたものですが,八幡のサクラソウは,もともと埼玉に自生していたものが,人の手などによって持ってこられたもののようだというのです.さらに,美和のサクラソウは,遺伝的に見ると日本の他の地域のどことも異なっており,独自の系統を作っているそうです.広島県の絶滅危惧I類に指定され,日本でも生息地が非常に限られているサクラソウが,美和では細々と独自の系統を作りながら生き残っていたということに,参加者のみなさんは感心されていました.
しかし,実際に現地に移動してみると,サクラソウはごくわずかであり「周囲にもあると考えていたが,限られた範囲しかなく驚いた」「業者の盗掘が心配」といった声も聞かれました.座談会の場では,参加者の口から「草刈りが必要」「花が咲いている時期,葉が茂る時期の光の照度を一定に保つため,枝打ち,伐採を行う必要がある」「4mまでは枝打ちしては?」といった意見が出ました.確かに,現在の生息地は日照が少なく,サクラソウにとってはちょっと暗いように見えました.その他にも「美和のサクラソウも,家で栽培して遺伝子資源を保全する方向で考えてはどうか?」など,美和のサクラソウを保全するための積極的な意見が出されました.しかし「基本的には生息地の保全が第一である」「不用意に持ち出して栽培しては,他の地域から持ってきたサクラソウと交雑する危惧がある」などの意見も出されました.まずは,葉がいつごろまであるのかということや,結実の状況を研究する必要がありそうです.その上で,地元の「サクラソウを育てる会」が基本的な保護方針を立て,広くボランティアなどと協力しながら保全を進めよう,という結論となりました.「サクラソウを町の天然記念物にしてはどうか?」という意見も,遺伝的な研究結果や全国における分布状況を見ると,十分に的を射たものであり,美和地域の今後の活動が楽しみです.[し]

美和東文化センターは,美和東小学校が美和小学校へ統廃合された後の木造校舎を改修した宿泊・研修施設.
この日,町内の雄鹿原小学校から5年生が参加した.サクラソウは国語の教科書に取り上げられている.

説明をして下さった「サクラソウを育てる会」の下杉会長.
サクラソウを育てる会が栽培を行っている圃場を見学.

八幡のサクラソウは,桃色が濃く,すべて短花柱花.
自生地に移動して,サクラソウの現状について観察する.

自生地のサクラソウ.数は決して多くない.
子供達も,掘れた溝,マルハナバチ,日照の状況など,サクラソウの生息環境について観察した.

自生地で見られたサクラソウ.
サクラソウの花は,本当に変異が多い.これはやや色が薄い.

観察会の後,再び美和東文化センターに戻って座談会を行った.
サクラソウの生態や保全,今後の活動について,活発な議論が行われた.


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