西中国山地自然史研究会 観察会
霧ヶ谷湿原のいきものハイキング

【案内文】
自然再生事業が進められている霧ヶ谷湿原で,いきものの観察をしながら歩きましょう.春にはカスミサンショウウオやヤマアカガエルの卵塊が確認されています.この時期にはどんないきものが生息しているのでしょうか.また植物と昆虫の関係や植物の名前の覚え方など,おもしろいお話も聞くことができますよ.
開催日時:7月13日(日) 9:30
集合場所:高原の自然館
準備:基本セット
講師:岩見潤治,和田秀次
定員数:30人
主催:西中国山地自然史研究会
協力:高原の自然館

【報告文】
再生事業が進んでいる霧ヶ谷湿原で,いきものハイキングが行われました.夏らしい青空のもと,21名のみなさんと二川キャンプ場に集合しました.植物担当の和田先生,昆虫担当の岩見先生が今回のハイキングの案内役です.再生事業地の現在の状況を見たり,「いきもののつながり」を意識して観察しましょうということをふたりの先生がお話されました.それから霧ヶ谷湿原に向かって歩き始めました.道路の脇には花が咲き,虫が飛んでいるので,目に付いたものからどんどん質問が出ます.最初の観察は,植物ではハンカイソウ,昆虫ではオナガアゲハだったように思います.少し遠い場所だったので双眼鏡で観察するとよく見えました.観察会には必需品ですね.昆虫が幼虫時にえさとする植物を「食草(しょくそう)というそうです.ヒメシジミはヨモギやマアザミを,スジグロシロチョウはハルザキヤマガラシを食草にしており,今回は幸運なことにスジグロシロチョウがハルザキヤマガラシの葉の裏に産みつけたばかりの卵を見ることができました.昆虫に詳しい参加者の方が,「メスが産卵場所を探しているときの独特の飛び方があるから,チョウを見ていれば産卵するかどうかわかる」というお話をされ,興味深く聞きました.そうしているうちに,すぐ目の前の葉を指さし,「あっ,また産んだ!」と言われるので,葉の裏を確認すると,卵がぽつんとひとつだけついていました.思ったより卵が小さくてびっくりしました.こんな風に実際に見ることができるのは,観察会ならではだなぁと嬉しく思いました.また別の場所ではノアザミから吸蜜していたトラマルハナバチを観察しながら,岩見先生より,このハチの体のしくみを聞きました.トラマルハナバチは後ろ足に花粉かごと呼ばれる部分があり,そこに花粉をためて巣に持ってかえります.その時に体毛に付いた花粉が,植物の受粉にも役立っているそうです.花と虫が互いに利点があることがおもしろく,ここでもいきもののつながりを深く感じることができました.木の葉にいたマイマイガの幼虫や,きれいな色のアオクチブトカメムシ,花にとまって花粉を舐めるツマグロキンバエなど,身近に観察できる昆虫を見たり,再生地の水辺では希少種のトンボを2種類も見つけたりと,たくさんの昆虫を観察しました.ほんの一瞬でしたが「キョロ,キョロ・・」と鳴きながら飛ぶアカショウビンが登場したのも嬉しい出来事でした.また和田先生からは,植物のお話の他にも,再生事業の工事方法や進行具合,変化が見られるようになった植生のことなど,具体的な説明がありました.再生事業の工事によって,この湿原の風景は大幅に変わりました.手法としては,ノイバラやハルガヤが生い茂る乾燥したやぶを切り開き,そこに水を廻すことによって,湿原化を図っています.去年の同じ時期と比べると,草丈の低い湿原が広がり,全く異なる風景になっています.また,早い段階からこの湿原の変化を見ている和田先生は,工事が終わって間もないのに,イの草原のようになっている部分が多いことに驚いていました.実際に湿原の中を歩き,観察してみると,思った以上のたくさんのいきものが生息していることがわかりました.この湿原は工事も進み,これからも変化を続けることでしょう.どんな変化をするのか,不安もありますが,楽しみでもあります.みんなでこの霧が谷湿原を見守っていくことができればいいなと思ったハイキングでした.[こうのやよい]

岩見先生より,訂正および追加情報です.
「私がヒロシマサナエと言ったのは,ヒメサナエの間違いでした.ほかに保留しておいた種名は,マメハンミョウ(毒あり)とマイマイガでした.」 【みなさんの印象に残った物】 「新しい湿地に入れて嬉しかった」「短い月日なのに植物の多く生えた事」「虫の多さにおどろき」「緑のカメ虫感動でした」「トンボ色々見たこと」「水が回ることにより植生が変わった」「虫の生き方の色々」「春と印象では緑がなかった所が植物が沢山あった事」 「ハンカイソウ満開」

【参加したみなさんの感想(抜粋)】
「いろんな昆虫の習性を聞かせてもらって大変よかった」「これからもずっと見続けていきたい」「春とは又ちがって緑が多くなって目にみえて変わっていると思いました」「のんびり歩いてとても楽しかったです.水の中に足を差し入れただけでも楽しい」「自然にふれていつも楽しいです」「植物と昆虫.今回はとても楽しかった」「再生地に沢山の植物が生えていたのにおどろいた」「湿地を回復した今後が楽しみ」「いろんな生き物の事が分かって楽しい一日でした」「湿原の再生についてはこれから注意して見ていきたい」「虫に愛情を少し持った見方が出来るようになった気がする」「高原の風を体に感じながら楽しくお話しが聞けて楽しかったです」「色々な昆虫が見られて楽しかったです」「“いきもの”ということで色々観察できてよかった.どうしてもばらけてしまうのがいいのか,悪いのか〜」「再生事業にたくさんの生き物がいた.水があることで,豊かになった感じがした」「思ったより早く湿地が,植物,動物が進入していること」


最初のあいさつをされる和田先生と岩見先生.植物と昆虫の組み合わせの観察会は毎年人気が高い.
熱心にメモをとる参加者.さて今日はどんないきものが現れてくれるかな?と期待がふくらむ.

ハンノキの葉にとまる毛虫の説明をされる岩見先生.
木の上で見つけた毛虫はマイマイガの幼虫だった.

人差し指にいる昆虫をみんなで見つめる,見つめる.その正体は?
正解は・・ 長くのびた口がゾウのよう.ユーモラスな姿のゴボウゾウムシ.

歩き進んでいくと,はみ(マムシ)を発見.その後アカショウビンが道路を横切るように飛んでゆき,参加者からは喜びの声があがった.
きれいな緑色のアオクチブトカメムシ.おそるおそる匂いをかいでみると,意外にも匂いはなかった.

黒いスーツを着て赤いサングラスをかけたちょいワルな風貌のマメハンミョウ.体液にカンタリジンという毒を持っているので,要注意.
二川キャンプ場からしばらく歩き,ぱっと開けた場所にでたらそこが霧ヶ谷湿原.双眼鏡で鳥を見ているのかな!?

いよいよ再生事業地に入る.青々としたイが目立っていた.
昨年完成した取水堰を渡りながら,再生事業地の工事の様子や,これからの変化について説明があった.かつては牧場だったこの場所も,事業により設置された導水路により,水が廻り,今春にはカスミサンショウウオの産卵も確認された.植物の植生の変化も楽しみだ.

雅な名前のミヤコグサ.岩見先生に「脈根草(みゃっこんぐさ)」という別名がありますよ,と教えていただいた.
水辺を飛んでいたトンボの体のしくみや生息地について説明する岩見先生.参加者からは次々と質問があがったり,トンボの姿を熱心にカメラにおさめていた.

岩見先生が調べたところヒメサナエだったことが判明.
春先に黄色い花を咲かせるハルザキヤマガラシ.スジグロシロチョウの食草となる.霧ヶ谷湿原の中でたくさんみかけた.

よぉーく見ると・・ハルザキヤマガラシの葉の裏にひとつだけ産みつけられたスジグロシロチョウの卵.成虫は幼虫にとってよさそうな葉を選ぶらしい.
トンボを見つめて何思う??

モリアオガエルのオタマジャクシかな!?ぷっくりした姿が可愛らしい.
今年も秋から工事が予定されており,これからの霧ヶ谷湿原の湿原化が期待される.

マメ科の植物クララの写真を撮る和田先生.覚え方は「くらくらクララ」だそう.
二川キャンプ場にて最後のまとめ.「再生事業地をみんなで見守っていきましょう」という和田先生の話が印象的だった.

アンケートに記入してもらいハイキングは終了.みなさんいつもご協力ありがとうございます.


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